最終防衛線

愛の狩人と確率時空
Open Menu

鋼鉄の胎児

 ストライク・イーグルからアクティヴ・イーグルへの換装を一通り終えたヴァレリオ・ジアコーザ少尉は、今後二十四時間の予定が何もないのをいいことに、強化装備のまま、格納庫(ハンガー)で自機をじっと見つめていた。既存のイーグルとパーツを共有している部分もあるため、目新しさにはやや欠けるが、アクティヴ・イーグルの胸元から見上げる自機の面構えの格好良さに、興奮冷めやらぬ様子で時たまにやにやしながら熱い視線を送る。
 戦術機も女のように扱ってやらんと、あっという間にダメになる。割と真面目にそう考えつつ欧州を駆け抜けて、でも時々必死に生き抜いてきたら、いつの間にかアメリカの最果てに流れ着いて、今ここで開発衛士(テストパイロット)として立っている。戦術機の特性も、女の特性もいち早く見つけてやるのが、俺の仕事だからな。
 俺もこんなに戦術機に熱上げて、アイツのこと笑えねえな…… と戦術機を性の対象として見ている同僚の首席開発衛士(メイン・テストパイロット)のことを思い出しながら、視線を足元に移す。豆粒ほどの大きさの整備班が忙しく駆け回っている。幼い日、設計技師の祖父に連れられて見に行った在りし日の自動車工場で、メカニックたちが自社の小型車を楽しそうに弄り回してしていたのを見ていた時のようなわくわく感は、十余年経った今でも健在だった。
「まあ男の子だもんねえ。兵器といえども、こんなにカッコよかったら、惚れないほうがおかしいってンだ」
 不意に口をついたイタリア語に今は無い土地と、大衆車の文化を懐かしむ。
「おう、なんだ! オメエ俺に惚れてたのか! 嬉しいねえ!! 知ってたけど」
「……惚れてねぇよ!!」
 振り返ると左手に工具箱、右手で特大のモンキースパナを担いだヴィンセントが仁王立ちしていた。デェエエン!といった感じの劇伴がしっくり来そうな出で立ちであった。ヴァレリオは何か言おうとしたが、敢えてなにもツッコまないことにした。
 悲しいことに、アルゴス整備班の元締めことヴィンセント・ローウェル軍曹もまた、曲がりなりにもラテン系の出自故に完全とは言えないが、ふわっとしたニュアンスなら、ヴァレリオの言語を理解できてしまうのであった。
「あ~あ、振られちゃったね、お前も戦術機が性愛の対象だったなんてなぁ……」
「なっ……!? 俺はアイツと違ってちゃんと人間の女も抱くからな! つい三日? 四日前? だって、ナインローゼス(風俗街)で女引っかけてヤったばっかだぞ……」
「で、五日前にソープでハズレ引いて、二週間前にキャバレーで給料日前だというのに、俺の金でドンペリ開けて、ナンバーワンの嬢とヤりましたよね? 途中で店抜けたの俺知ってるんだぞ!? 俺はなんでお前のちんこ事情についてここまで明るいんだ……」
 ヴィンセントは担いだモンキースパナを両手で持ち替える。目の前に振り回されるそれに慄き、ヴァレリオは呻きながら一歩引いた。
「お前サンが俺に惚れてるからだろ?」
 ヴァレリオはキャットウォークから再び下の整備班を見つめながら言う。
「最後にヤったのいつだっけ?」
 ヴィンセントは質しながら下の連中を窺うようにヴァレリオの隣にやって来る。
「三日前じゃねえのかよ」
「それは女だろ、俺とだよ」
「……忘れた」
「そりゃあねぇよ!!」
「何でそこまでしててめーとのセックスの回数覚えてなきゃいけねぇンだよ!!」
「うっ……」
 ヴィンセントがあからさまに怯んだ。それを見たエメラルドの瞳がいやらしげに細くなる。
「……一週間前だろ。 良かったよ」
「お前なあ……」
 いたずらそうな笑みを浮かべて、あからさまな掌返しをした張本人は、キャットウォークの手摺でうなだれ、落胆するヴィンセントの髪を撫で、そのまま頬へと流す。
「ヴィ…… VG……あのさ……」
 ヴァレリオとの距離の近さに思わず目を背けるヴィンセント。ああ、なんかVGのペースで振り回されてるけど、俺こいつに言うことあったんだよな……
あっ!
「思い出した! 着座調整すっから、ちょっとだけ管制ユニット入ってくんねぇかな?」
「用件あンなら最初に言えよ」
「おめーが変な煽り方するから、最初に伝えるはずの用件吹っ飛んじまったんだよ!」
「煽ってねえし! そもそも煽ってきたのはお前だろ!」
「そうだ! ついでにおめーら、今日はもう解散でいいよ!! お疲れ様!!」
 ヴィンセントが下の連中に解散の許可を告げると、下の連中はお疲れ様です! と何重にも格納庫(ハンガー)内に響かせながら、水を得た魚のように我先と持ち場から離れていく。
「いやに適当だな…… おめーみてぇなンに俺のアクティヴ任せていいンですかね……」
 ヴァレリオは不安そうな顔をしながら皮肉る。
「いいんだよ、さっき整備班長達に許可取ってきたもんね」
 ヴィンセントは満面の笑みでヴァレリオに返した。

***

 仄暗いアクティヴ・イーグルの胎内に着座すると、データリンクが即座に呼応し、網膜投影が一瞬のうちに外の世界を映し出す。ヴァレリオの目下で、まばらに現場を離れる整備兵達と、鋼鉄の子宮の外で、胡坐をかきながらノートパソコンのキーを忙しなく叩くヴィンセントのウィンドが一瞬遅れて網膜に叩き込まれる。画面をじっと見つめるふたつの碧眼から放たれる真摯さに、口でどれだけ皮肉ろうとも、やはりヴィンセントの腕には自身だけではなく、アルゴス小隊の全員が信頼を置いているのだった。
「……どうっすか先生?」
 この間僅か二、三分余りではあったが、沈黙に耐え切れず、思わずヴァレリオが無線越しに問う。
「大丈夫大丈夫、電気系統もデータリンクも正常だから! もう出てきていいぜ!」
 ターン! とエンターキーを叩き、タッチパッドに何度か指を滑らせた後、ノートパソコンの画面を畳む。管制ユニットがイジェクトし、本物のヴィンセントが網膜に映る。
「あざっす! 俺の今日の仕事おしまいっ!! VGも、この後何もないんだろ? 一緒に飲みにでも行くかね?」
 ヴァレリオは至近距離まで近付いてきたヴィンセントの髪を掻き上げ、そっと耳打ちする。
「『強化皮膜の替えを申請してきた』、この後どうだ?」
「マジ!? あざぁーーーーーーす!!」
 ハンガー中に響いたヴィンセントのあまりにも明るく、底抜けた声に、まだ捌けきっていない整備班たちは思わずヴィンセントの方に顔を向けた。
 ヴァレリオは来いよ、とだけ告げると、焦燥するヴィンセントをよそに、半ば強引に管制ユニットに引き入れ、そのままアクティヴ・イーグルの胎内にリターンさせる。ヴァレリオは手元のコンソール・パネルの照明の電源以外を全て落とす。これで思考制御で動くアクティヴが不意に暴走することはまずない。
 コンソール・パネルの照明が、互いの顔が薄らと認識できる程度の明るさで二人の男の顔を僅かに染める。
 単座の管制ユニットは、一人で操縦する分には不自由ないし、少し余裕があると感じる程度の狭さであるが、いくら二人押し込めるといえども、それは緊急用の補助座席に座っていることを想定してのものであって、当然ではあるが、男二人が管制ユニット内で性交することを想定している訳ではない。
「別にここでヤらなくてもいいだろうが…… お前ってやつは本当にド淫乱だよな」
 ヴィンセントは口を尖らせて、正面でコネクティング・シートにもたれかかるヴァレリオに放つ。
「言ってくれるじゃねえかヴィンセント。ド淫乱なンて誠に心外。こういう小話(アネクドート)を知らねえのかお前は?」
 自分のことを棚に上げ、狭い管制ユニット内で大げさに腕を振り上げた。
「とある衛士が新しい機体に換装したンだ。そいつがまず最初に、新しいコックピットでしたことは何だと思う?」
「そりゃあ普通に考えれば慣熟操作だろうが」
「オナニーだ」
「はあ……?」
 ヴィンセントは先刻まで行われていた長時間の実機演習で、目前の男が薬物投与されていたのではないかと一瞬だけ心配した。
「チンコのところのアレあるだろ、ドレンって言うンだけど、あれさ、中身粘性あンだよね。ソレを上手い具合に噛ませると気持ちよく達せるンだよ…… って、蘊蓄はともかく、新しい機体とか、新しい部屋に移ったりすると、自分の匂いとか付けたくならねェか?」
「確かに、俺もユーコンで部屋貰ってすぐオナニーしたわ、なんかマーキングしねえと落ち着かねえっていうか……」
「だろぉ!? そういうことだ! コイツは俺の相棒だからな、俺の総てを教え込まねえと!」
 ヴィンセントはヴァレリオの言うことに完全に納得した様子であった。
「ところでヴィンセント…… そろそろコレ、やりたいンじゃねえの?」
 ヴァレリオは右手で肩まで伸ばした前髪を掻き上げる。肩甲骨の位置にある、透き通った青のレスキュー・パッチが髪の間から覗く。ヴィンセントは半ば興奮気味にヴァレリオのコネクティング・シートへと近付こうとするが、ヴァレリオは待て、と一蹴し、髪に触れた腕をそのままヴィンセントの頬へと伸ばすと、装着したままであったサブインカムの電源を直接入れる。
「げひゃぁ!?」
 ヴィンセントの視界が一瞬にして外の世界に切り替わる。十数メートル下の様子が鮮明に映し出される。その様にヴィンセントの睾丸は一瞬にして縮こまった。死への恐怖心を本能的に抱いたヴィンセントは、そのまま反射的にヴァレリオにしがみ付く。
「うわあああVG!!?? お前何したんだ……ッ!? はうあ!!?」
 ヴァレリオはヴィンセントが余りにも絶望めいた顔をしたため、流石にサブインカムの電源を切ってやった。
「いや、お前がレスキュー・パッチ押したがってたから…… それを阻止するために、取り敢えず網膜投影展開させた。悪ぃとは思ったよ、でも、俺だって強化装備プレイとか滅多にやらねぇもん! 押したいに決まってンじゃん!! ぷしゅって!」
「もう……さっきのアレで金玉縮こまったじゃねーか! いい加減にしろよ!」
「だからそれはすまンって……」
「……! じゃあ一緒に押せばいいじゃん!!」
「お前頭良いな! 流石にXFJ計画の主任整備士任されてるだけのことはあるな! でも俺より先に抜け駆けして、パッチ押したかったンだろ?」
「抜け駆けじゃねえけど…… 押したいに決まってんだろ!! なんか、こう、ロマンじゃん!? 衛士とエッチしてる~って感じになるし!」
 あまりにも低レベルな示談の結果、二人で一緒にレスキュー・パッチを押し、事を始めることと相成った。ヴァレリオは両手を交差させ、親指を肩甲骨のパッチへと宛がう。ヴィンセントもパッチに親指を添える。
「押すぞ!」
「来いよ!」
 二人同時にパッチを押すと、ぷしゅっと心地良い音と同時に分解液がヴァレリオの強化皮膜にじわじわと行き渡る。ぴったりと肌に密着していた強化皮膜が少しずつ肌から浮いていく。【強化装備】としての機能を断っているため、被膜が融け、外気に触れる感覚に酔いを見出し、息を漏らす。そのままヴァレリオは自身の脚部の間で中腰になっていたヴィンセントのカーゴパンツのベルトを緩めて、下着ごと一気に引き下ろすと、ぼろりと萎えた陰茎がヴァレリオの目前に現れる。反射的にヴィンセントはヴァレリオから目を逸らした。
「よかった、金玉ちゃんと残ってンじゃねえか」
「タマがなくなって、女になってたら責任取ってくれたのかよ……」
「絶対嫌だ。お前、変なところで真面目だから、いつまで経っても面倒臭い処女みてえな性格してそうだし」
「こうして二人で何回も既成事実作ってるのに、今更何言ってんだよ……」
「男のオメエとヤるから楽しいンだよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃんよ。なんだかんだ言ってるけど、お前も俺のこと好きなんでしょ?」
 さあ、どうだろうね。ヴァレリオは軽く流す。ヴィンセントは、普段ヴァレリオが女に囁くような言葉を、自身に投げかけられたことが一度もない。当然と言えば当然なのだが、二人の男が今ここで行っている行為は、オナニーの見せ合いの延長線であり、あくまでセックスという手段を用いた快楽の相互追求に過ぎないのである。
 網膜投影テロで、亡き者にされかけたヴィンセントの睾丸を目視で確認するや否や、ヴァレリオはヴィンセントの睾丸をその手中に収め、優しく揉みしだく。素手とは違う強化装備の感触に、ヴィンセントの息が少しずつ荒くなっていく。揉みしだく手の動きに呼応して、萎えていた陰茎は少しずつ硬度を孕み始めていた。
「よかった…… お前のチンコまで勃たなくなったら、俺は誰にハメて貰えばいいのか、路頭に迷うところだった」
 ヴァレリオは真面目な顔で、ゆっくりと睾丸から陰茎へと手をかけていく。強化皮膜の溶解液を拭って、潤滑剤代わりに陰茎に塗り広げていくと、とろとろとした先走りと混じって、ヴァレリオの手中で一段と力強くその存在を主張する。
「ステラに土下座でもしてハメて貰えよ、ペニバンでも付けて貰ってさ。きっと興奮するぜ」
「やだね。オンナの前でそういうことはしたくねえンだよ」
ヴィンセントも強化皮膜だった液体を指に絡ませながら、ヴァレリオの乳首を軽く弄る。ッ……!! と反射してしまった事実を否定するような声と共に、ヴァレリオの身体が仰け反る。突撃砲が密着力を失った排泄ドレンから、突破口を開けるかの如く隙間から覗く。
「ああ、こうされて興奮するの知られたくないのね。別にプレイの幅広がるしいいじゃねえかよ」
「前に更衣室でふざけてお前に乳首弄られたろ」
「そんなこともありましたね」
「そのあとすぐ別のオンナと約束あってさ」
「まーたお前はそうやって俺をすっぽかして!」
「それに気付いた女が! 俺の乳首を弄った挙句! 『乳首開発衛士』だなンて言って! その後一ヶ月色んな意味でみっちり弄られたンだぞ!? そしてだな……」
「まあまあ、そう言わずもうちょっとだけいいじゃあないっすか」
 ヴィンセントは嬉しそうな笑みを零して、ヴァレリオの乳首を軽く摘み上げる。
「あぁああっ……!! ふっ、うう…… はぁ」
 ヴァレリオは切なそうに目を細め、僅かな刺激から更に快楽を増幅させる。普段のベッドの上で、ヴァレリオから主導権を取るのは至難の業である。開始早々マウントを取れるとは思っていなかったヴィンセントは、そのまま更に乳首を捏ねるように弄ろうとした。
「……あっんんっ! っ!?」
 突如、下腹部から脳へと甘い刺激が劈く。抑える間もなくヴィンセントのいやらしい声が管制ユニット内部に駄々漏れていた。
「あんまし急かされンのは、ぁ…… 好きじゃねえンだ、よ……」
 ヴァレリオはニィと口角を上げ、握ったままだった陰茎に奇襲を掛ける。航空優勢にはさせるが、制空権までは握らせない。イタ公の癖にと言うべきか、イタ公だからと言うべきか、それ以前に衛士であるからか。
「おめえが遅漏すぎるんだよ! あっ……だめ、VG、そこイイの……っ!!」
 親指と人差し指で雁首をきゅっと締める。早漏のヴィンセントにもうイかれても面白くないので、指先の力を少しずつ強くしていく。ヴィンセントの陰茎はどくん、と血液が己が砲身に勢いよく流れていき、更に膨張を続けた。
「イきたい?」
 ヴァレリオは声を弾ませて脅す。ヴィンセントは深く頷き、じわじわと焦らされて息を弾ませる。強化装備のグローブが先走りで濡れる。 「今日はアクティヴの初慣熟だ。……俺がイくまで我慢してろよ?」
 ヴァレリオは前に乗り出し、脚を上げ管制ユニットの側壁に脚をかけた。溶けた皮膜で所々肌が露出している。鍛え抜かれた尻と太腿が目前に迫り、ヴィンセントは息を呑む。あんな言い方をしたが、ヴィンセントが喩え挿入三擦り半でイってもしょうがないのは承知の上だ。しかし、それ以上に管制ユニット内・強化装備といった特殊な環境下でヤることにヴァレリオ自身興奮しているのもまた事実であった。
「……いいのか?」
「――キて……」
 女のようなよそ行きの誘い顔でヴィンセントの網膜を直接狙い撃つ。碧き双眸に写るあまりにも完成された表情と、排泄ドレンに隠れ、見えそうで見えないヴァレリオの陰茎を目前にしてもまだ、ヴィンセントの心中で引っかかりは拭い切れていなかった。
「……マジかよ?」
「……嫌ならいいンですよ」
 わざとらしく口ではそう言っておきながら、ヴァレリオは排泄ドレンを引き上げる。融けた皮膜と先の実機演習で昂ぶりを抑えきれず、既に二・三度は吐き出されたであろう精液が僅かにとろとろと零れ、ヴァレリオ自身がその身を遺憾なく露わにさせる。甘いマスクとは裏腹に、武骨な血管が雄々しく浮き出し始めている。汗と雄の匂いが一段と鼻に突く。こんな状況でヴィンセントが耐えられる訳がなかった。
「お、お願いします……」
 ヴァレリオの無言の懇願に、ヴィンセントの疑いは一転して晴れ、ヴィンセントの目標は僅かに疼いている最奥部へと一気に傾く。ヴァレリオの胸から腹筋にかけ溶解した強化皮膜を陰部へと持って行くように愛撫をしてやると、ヴァレリオはふぁ、あぅ……、と喘ぎを漏らしながらびくりと僅かに跳ねる。ヴィンセントもまた、その声に鼓膜を犯されながら尻を揉みしだき始める。
「あぁふっはぁああっ……!! そこっ……! すごい、イイ、っ……!!」
「VG…… すっげえやらしい顔してる…… 腸膣内(ナカ)、弄っていい?」
「……いいぜ。 早く来いよ」
 股の部分に集めた皮膜だった液体を、自身の指と普段進入することのない入口に潤滑剤代わりに塗っていく。途中、円を描くようにそこを弄んだり、挿入しない程度にキュッと軽く指を押しつけると、ヴァレリオはもどかしそうに最奥に誘うようにひくひくと反応し、求めるように喘ぐ。自身も堪えられなくなってきているヴィンセントは、ヴァレリオの最奥へと続くそこに一気に二本、容赦なく挿れていく。ぐぁ、とヴァレリオが呻くのも気に留めず、ヴィンセントはがさつに指をもう一本挿入し、挿入(はい)るところまで指を挿入れていく。慣れているからか、ハイペースでぐりぐりと奥まで進んでいく。
「VGはこんなんじゃあ…… 全然足りないだろ? い、今から、挿入(い)れるぞ?」
 ヴァレリオは余裕のないヴィンセントを見て、可笑しさに頬を緩ませる。ヴィンセントは皮膜を扱くように息子全体に塗る。一回手を動かす度にはぅ、あっ、と傍目にもいっぱいいっぱいな喘ぎ声が漏れてしまう。ヴァレリオにはまだそれを微笑ましく見ている余裕があるのだが、当人は早くVGの腸膣内(ナカ)でちんこじゅぷじゅぷしたい!! と思考の殆どを既に陰茎に奪われていた。
「ヴィ……、VG!!!! 挿入(い)れるぞ!!」
 ぬちゅ、と濡れた音を随伴させて、ヴィンセントは容赦も遠慮もせずヴァレリオの第一防衛線を突破した。腸膣内(ナカ)を突き進むたびに腸壁の凹凸の熱さと適度な締め付けに意識がトびそうになるのをヴィンセントはぐっと堪えて、その先の最終防衛線を目指す。
「ああっくっはぁあぁはぁっうっ! ううぅはぁっ」
 ヴァレリオは待ち焦がれていたそれに、堪らず腰を打ち付けようとした。
「ううぅあ、あ、あぁあぁああっ~~~!!」
 何かを感じたヴィンセントは突然襲われる恐怖感に、咄嗟に管制ユニット上部の肩当ての部分を必死に掴んでいた。
「ヴィンセント! 何だよ、早くシろよな!」
「……揺れてる!!」
「はあ……?」
 結合したままの状態で、二人は一瞬沈黙した。ヴァレリオは堪らずキュッとヴィンセントを締め上げる。あわっ! と変な声を上げ、びくびくと腸膣内(ナカ)を刺激するヴィンセント。陰茎はまだ萎えていないようだ
「当たり前だろ、管制ユニットだぞ」
「そっか…… すまねえ」
 いくら戦術機がガントリーで固定されているとはいえ、動けば多少の揺れは感じるし、ただでさえ地上から十数メートル上の場所にいれば、僅かな揺れでも増幅されてこちらに伝わる。ヴィンセントは完全にそのことを忘れていたのだ。
「……大丈夫か? やめるか?」
 衛士故こんな揺れなど大した物ではないと思っていたヴァレリオであるが、ヴィンセントに余計な気を遣わせてしまったと思ったのか、優しく声をかけた。
「こっ…… ここまで来てやめられる訳ねーだろ! 俺だってもっと不安定な場所で整備やってるし! これくらいなんてことねえよ! さっきはちょっとビビっただけだもんね……!」
「そンだけ言えりゃあ上等よ。じゃあ、続きをどうぞ」
 ヴィンセントは呼吸を整えてヴァレリオの尻を掴み、自身の方に引きつけ、ゆっくりと腸膣内(ナカ)で再び動き始める。外からの僅かな揺れと、無理矢理尻を押さえ付けられ、ぬちゅ、じゅぷぷ…… と最奥まで深く抉られながら人為的に揺さぶられる感覚に、ヴァレリオの酔いが一気に回っていく。腰を揺さぶられ、陰茎がヴァレリオの腹の上でびたんびたんと踊り狂う。ヴィンセントは皮膜を掬い、がら空きの陰茎を自身の手中に収めるが、勃起したそれは男の手でも持て余すほどの大きさであった。自身のそれよりも一回りも大きいその圧倒的物量に、毎度のことながらヴィンセントはひっ、と戦慄きながらも、恐る恐るその身をきゅっと握りしめる。己が手中にヴァレリオの熱がじんわりと伝わってくる。ヴィンセントはゆっくり上下にストロークさせていく。そのぬるぬるとした感覚に、ヴァレリオは自身の陰茎を扱かれる度に色を含んだ声を零した。 「くっはぁっ……ヴィンセント…… あ、チンコ、すげぇ、気持ちイイっ…… ううぅ、すごい…… トびそう……、くっううぅ……ふっううぅっ……!!」
 腸膣内(ナカ)ではヴァレリオの最奥を既に我が物とし、一番好いところを強引に攻め、陰茎を長年の整備で培った大きく、ごつごつとした手で収め、今、ヴィンセント・ローウェルはヴァレリオ・ジアコーザの総てを掌握している。そして何より、天衣無縫とも形容できる愛の狩人・ヴァレリオ・ジアコーザという男をこうした形ではあるが、仕留めた事実に何より興奮していた。しかし、その興奮は一瞬にして切り崩されることとなる。  ヴィンセントはヴァレリオがいつもやるように、亀頭の割れ目と雁首への奇襲を行った。
「はぁっああっはぁっううぅうっ! ううぅふっうっ!」
 ヴァレリオはびくりと身体を仰け反らせ、腸膣壁(ナカ)を激しく痙攣させた。
「ふっああっああっ、もう、だめ……、ヴィ、VG!!もう、イっちゃう…… あっ、あっ、あぁあ、ああっあ、あぁふっう!」
 ヴァレリオがヴィンセントの陰茎をきつく締め上げる。ヴィンセントは快楽の限界にまで達し、獣のように腰を更に激しく打ち付け、ヴァレリオの最奥・空洞(うつろ)の子宮に、どぷどぷと際限なく自身の遺伝子情報を総てぶちまける。ショットを引っかけたときのような高揚感と熱さがヴィンセントの全身を駆け巡っていく。総てをヴァレリオの虚洞膣内(ナカ)に放ち、ヴィンセントが自身の陰茎を抜こうと僅かに後退しようとした時だった。
「ま…… まだ抜くな!! あ、あと少しでイけそうなンだ……」
 ヴァレリオがぴしゃりとヴィンセントに放つ。精を放ち萎えかかった陰茎は、ヴァレリオの腸膣内(ナカ)で再び穿たれ、再起しかけている。射精後の倦怠感とヴァレリオが与える刺激との間でヴィンセントは生殺しを余儀なくされる。ヴァレリオは自身の快楽を追い求めながら、ヴィンセントが腸膣内(ナカ)で放った精液とともに優しくヴィンセントの陰茎を蹂躙していく。
「ヴィンセント…… ナカ、ドロドロで、じゅくじゅくしてて、すっげぇ気持ちイイんだ……」
 懇願するように、ヴァレリオはゆっくりと己の腰を揺さぶる。生殺しを余儀なくされ、どっちつかずであったヴィンセントの感覚は、ふわふわと宙に浮いてしまうような心地良さへと変わりつつある。また陰茎はむくむくとその身に血液を集中させ始める。
「VG…… 俺もすっげぇイイよ……」
やっと見せてくれた。よそ行きではない、俺だけにしか見せない顔だ。ヴィンセントはヴァレリオの表情に当てられ、再びヴァレリオの陰茎に手を掛けた。
「ほんっと、おめえは、遅漏なんだからなあ……」
 ヴィンセントはパンパンに張り詰めた陰茎を、根元から優しく扱いていく。四、五回くらい繰り返した頃、挿入(はい)ったままのヴィンセントの陰茎が一段ときつく蹂躙される。
「やば、もう、イく、っ、ううぅっぁんんっ、ぁあっあっううぅううぅ!」
 びゅるるるるる! と堰を切ったかのようにヴァレリオの亀頭から太く、熱い放物線が描かれ、強化装備を汚していく。皮膜と相俟ってべちょべちょに汚れていく様をまじまじと見ていたヴィンセントも、ヴァレリオの腸膣内(ナカ)で二度目の射精をしていた。量は先の時よりも少ないが、ヴァレリオの胎内を更に満たしていたのは間違いなかった。
「――さすがにもう一発なんて言わねえよな、抜くぞ」
「……はは、気持ちよくイケたし、もういいや」
 ヴィンセントはゆっくりと息子をヴァレリオから抜くと、自身の精液とヴァレリオの腸液が混ざって零れ落ちていく。陰茎がずるりと抜けていく感覚にヴァレリオはまだ酔いが覚めていないらしく、ふあ、と僅かに声を震わせた。ハメる体勢を取るために、側壁に脚を支えたままのヴァレリオの脚をフット・ペダルの位置に戻してやると、グラッツェ、とヴァレリオはヴィンセントの頬にキスをした。

***

 強化被膜と精液で汚された強化装備。改めてこの惨状をまじまじと見ているヴィンセントは、ヴァレリオの姿にまた身を擡げ始めていた。陰茎は正直であるが、肉体はもう既に保たないし、精液はもう出ないであろう。
「ヴィンセント……」
 コネクティング・シートに身を預けているヴァレリオもまた気力尽きていた。
「VG……」
「自分から誘っておいて言うのも難だが、流石にこれじゃあ、ロッカーまで行くに行けねえな…… あの、C-ウォーニング、強化装備用のジャケット。 俺のロッカーから、取ってきてくンねえかな」
 お前も辛ぇとは思うけど、そっちのが大して汚れてねえしな、とヴァレリオは優しい目でヴィンセントに懇願する。長い睫毛が伏し目がちにヴィンセントに向けられる。飾らない自然な色気についドキリとしてしまった。ヴィンセントは収まりのつかない息子をカーゴパンツに無理矢理しまい込むと、ヴァレリオからロッカーの鍵を受け取る。管制ユニットを僅かにずらし、人ひとり出られる分だけ開けて、ヴィンセントを外に出して、一旦閉じる。外気の冷たさと、新鮮な空気が僅かに入ってくる。管制ユニット内に籠っていた自身の雄の匂いの濃さに一瞬顔をしかめてしまう。欧州での長期作戦で、自身の匂いが嫌でも鼻に突いたときのことを思い出す。
「あンときは何にも気にしてなかったのになあ……」  生きるか死ぬかの二択を何度も突き付けられて、毎回「生」という選択肢だけを必死に掴み、衛生面云々なんて言っていられなかった頃。
「それでも結局、姉貴には勝てなかったな…… クソ」
 前線にいた頃は何も気にはしていなかったけれど、その昔、唯一気掛かりだったことを思い出す。イタリアに帰ったら絶対に返り討ちに遭わせようと強く心に誓った。もう負けたくねえな。それに、ヴィンセントとこんなことをしていたなんて言ったら、事細かに尋問されるから、絶対に言わないでおこう。とも強く誓った。もとより、ヴィンセント以外の奴に言うつもりもないが。
 タンタン…… と軽快にキャットウォークを駆けてくる音が聞こえてくる。その音が大きくなるのを確認して、ヴァレリオが管制ユニットを開くと、C-ウォーニングを抱えたヴィンセントが息を切らしていた。
 C-ウォーニングと呼ばれる強化装備の上から着用が可能な膝丈のオーバージャケットは、通常開発衛士(テストパイロット)が普段遣いで着用するものではない。本来であれば、前線の衛士が実戦に赴く際、強化装備の機能を長く保たせるための外部バッテリーとしての役割というのが元来の用途で、こんな後方でこのジャケットを纏っていると言うことは、実戦に即した大規模演習でもない限り、滅多にないのである。(そもそも日数を費やすような大規模演習も頻繁に行われるものでもないが)後方でも、使わないわけではないため、最低限支給される衛士の備品として、各自のロッカーに一着は備わっている。
「……ハァハァ…… おまっとさんでした」
「早かったな、おめえだって辛ぇだろうし、無理しなくても良かったンだぞ?」
「気にすんなよ、お前の頼みだもん、早く持ってってやりたかったんだよ」
 ヴィンセントは耳まで赤くさせながらはにかんでいた。
「でも、掃除は連帯責任だからな。とりあえず出てこいよ、着替えなきゃどうしょもないだろ」
 ヴィンセントは管制ユニット内の惨状をひとまず放棄する。ゲロをぶち撒かれていないだけまだましだ。わかってるさ、とヴァレリオは重たい身体をなんとかして管制ユニットから引き上げる。ヴィンセントはそんな状況をおちおち見ていられず、脱出するのを手伝ってやる。やっとの思いでヴァレリオを脱出させると、薄青だった強化皮膜は殆ど素肌の色に変わり果て、排泄ドレンも一緒に放棄してしまったため、陰茎も露出していた。強化装備とは名ばかりで、ほぼ全裸と大差ない。格納庫(ハンガー)は既に人も出払っているため、殆ど誰もいなかった。しかし、羞恥心をなくすために元から全裸みたいなデザインの強化装備といえども、アンダーの皮膜一枚失えば、普段の強化装備でさえ見られない箇所も露わになる。男性用であれば尚のこと。こんな姿を他に人が誰もいないとはいえ、管制ユニットの外で目前の友人に見せつけていることに、ヴァレリオの中で何かが芽生えかけていた。ヴィンセントはそんなことに気付く訳もなく、持ってきたC-ウォーニングをご丁寧なまでに甲斐甲斐しく着せていく。致し方ないとは言え、総てを委ねてくれるヴァレリオに、ヴィンセントの中では嬉しさが先立っていた。
「はいできました! 取り敢えずロッカー戻るか」
「……ありがとな」
 ヴァレリオは努めて冷静にヴィンセントに微笑む。
「VG大丈夫、歩けるか?」
 ヴィンセントはヴァレリオの腕を自身の肩に回させる。悪ぃ、とヴァレリオはヴィンセントの肩に寄り添うように、ゆっくり一歩ずつ歩を進めていく。腸膣内(ナカ)で
射精(だ)されたヴィンセントの精液の残滓が、ヴァレリオの胎内を思いの外蝕んでいた。
「ホントにお前大丈夫か!? ……最悪台車に乗せて運んでやるけど……」
「やたら目立ちそうだから遠慮するわ…… 誰かに見つかったときの言い訳も思いつかないし、そこまで大袈裟なモンでもねえし、そンなに気にしないでくれ……」
 当然ではあるが、ヴァレリオはC-ウォーニングを素肌の上に直接身に付けている。胎内に残る精液もだが、裏地が直接乳首と陰茎を刺激しているのである。一歩歩を進める度に、布地が擦れていやらしい声が漏れてしまう。陰茎も擦れ、ゆるゆると硬度を上げてきており、脚から先走りが伝わないか不安になりながらも歩いていた。しかし、ヴィンセントにそれを知られてしまったら――とも思っており、背徳感のような興奮さえも感じていた。
 ヴァレリオもさすがに自発的な青姦を除いて屋外で欲を晒すような醜態はしたくないというプライドもあったため、息を荒げながらも、何とか堪えて歩を進めていった。
 地上へ行くエレベーターに乗り込むと、ヴァレリオは壁に寄りかかる。肌に布が擦れる刺激はないが、生脚が外気に触れ、思わず身震いしてしまった。歩いているときは気付かなかったが、すっかり陽も落ちて気温が下がっていたようだ。操作ボタンを押すヴィンセントを傍目に、ヴァレリオはここに来て自身がいけない性欲を抱き始めていることに気付く。しかし、ヴィンセントになら曝しても大丈夫だろう、という謎の自信と興奮から、C-ウォーニングの下の突撃砲は再びその身に実弾を仕込み始めていた。
 やっとの思いで更衣室まで戻ってきた。当然のように誰もいない。ヴィンセントは取り敢えずヴァレリオを長椅子に座らせ休ませる。ヴィンセント自身もセックスの後にここまでヴァレリオを連れてきたこともあり、軍靴を脱ぎ捨ててその隣の長椅子に全身を預けて寝転がっている。
「VGシャワー浴びるなら言えよ? 強化装備ごと脱がしてやっから」
「ああ、まだいいや。それより……」
 ヴァレリオはドキドキしながらも立ち上がり、ヴィンセントの顔の前に移り、C-ウォーニングの胸元を掴んでいる。
「し…… 視姦してくれ……」
「マジ!? ヤるヤるヤります!!」
 ヴァレリオからの申し出にヴィンセントは目を見開いて飛び起きた。ヴァレリオの言うことを断る道理はヴィンセントにはなかった。ヴァレリオはヴィンセントの目の前でゆっくりとC-ウォーニングの前を開く。
 前線で鍛え上げられた長身の男の肉体が、ヴィンセントの目前に曝される。皮膚に残る強化皮膜に塗れてツンと張り詰めた二つの乳首、荒い呼吸と同じ間隔で僅かに前後に動くシックス・パック、陰茎は既に腹にくっつく勢いで、先走りがとろとろと陰茎を伝い、太腿を濡らしていた。
 自身の肉体を男女問わず曝すことに抵抗はない筈なのだが、なぜか今ここで目前の男に改めて肉体を曝していることに、傍目にもわかるくらいハアハアと息を荒げて興奮している。ヴィンセントもこの状況に、カーゴパンツにしまった陰茎がギリギリまで張り詰めている。
「やらしい身体見せつけちゃって…… VG、お前どうされたい? ちんこ扱いて射精(だ)して欲しいの? それとも前みたいにもっと乳首弄って欲しい? それとも……」
「……な、胎内(ナカ)の…… スペルマを掻き出して欲しいんだ……」
 ああ、他人にこれやらせるとか俺頭おかしいんじゃねえの? てめーでやれよとか、あわよくば俺が思っていた以上のド変態だと愛想尽かされるんじゃあねえか? お前もいいんだぞ? 俺の異常性癖にこれ以上付き合う義理はねえからな? ヴァレリオは内心焦っていた。
「いいよド変態!! 強化装備脱げよ!」
「……お前もな! ありがとう……」
 ヴィンセントは即答だった。ヴァレリオは目を見開いた。ド変態と罵倒されたことに関してではない。自身がド変態なのは既に自覚している。ヴィンセントがそれを快諾したことに驚いているのだ。いくら自分で懇願したとはいえ、また衛士のアナルが排泄行為という本来の役目を殆ど果たしていないからといって、それを喜々としてやってくれるなんて正気の沙汰ではないと感じていた。
 当のヴィンセントは正直、ヴァレリオが自身に対してこうも強請ってくることに嬉しさを一入感じていた。ヴィンセントはオナニーの延長であったこの悪習を重ねていくうちに、ヴァレリオとの快楽の追求という手段が目的にすり変わっていたのだ。ただ、お互い気持ち良く射精をしたいがために、互いの手コキでイってみたり、夜通しAV鑑賞会してみたり、ゲイではないけれど、アナルが気持ち良いとエロ雑誌に載っているのを一緒に見て、それを感じたいがためにセックス紛いのことを何度もしていた。当然と言えば当然である。しかしヴァレリオは何度それを繰り返しても、ヴィンセントに対して「快楽の追求」以上を求めては来なかった。ヴァレリオが今提示したそれも一種の快楽の追求ではあるが、ここまで必死になって求めてきたのは初めてであった。  ヴァレリオはC-ウォーニングをその場に脱ぎ捨て、強化装備の外殻をオミットさせた。強化外殻に覆われていた太くも長い四肢が露わになる。
ヴァレリオは誘うように、後ろ髪を掻き上げてわざと項を見せつける。ヴィンセントがそれを見て息を呑みながら、早くシャワー行けよ! と促すも、ヴァレリオがお前まだ服着てンじゃねーか! 早く脱げ! と返す程度には昂ぶりを感じていた。
 シャワールームの一室で、裸の男が二人、合い向かいに立っている。ヴァレリオはしきりにシャワーの温度調整をしている。ヴィンセントにも時に冷たかったり、熱かったりする飛沫が飛んでくる。
「いいか、このホースを俺にぶち込んでくれ」
 ヴァレリオは真剣な口調でシャワーヘッドを外して、適温に調整したホースをヴィンセントに渡した。
「了解した、同志ジアコーザ」
「うむ、宜しく頼むぞ同志ローウェル」
 ヴァレリオは壁に手を突き、腰を低く落とす。先刻までヴィンセントを受け入れていたそこがひくひくと疼いている。ヴィンセントはきゅっと閉まった入口を親指で割ると、とろとろと自分が射精(だ)した精液が溢れてくる。
「……んんっ! ぁあっううぅあふわっあああっ」
 フロー・バックが直腸から流れて出ていく感覚にぐっと身体に力が入ってしまう。ブチュ、ブリュ、と汚い音を上げながら白濁を零す様は、久しく感じることのなかった排泄の感覚そのものであった。ヴァレリオはそれを見られている事実に、意識がトびそうになっていた。ヴィンセントは背中に覆い被さり、ヴァレリオの顔を覗き込む。今にも泣きそうな顔で享楽のみを貪る男の顔に、ヴィンセントは再度挿入したくなる気持ちをぐっと抑えた。
「嬉しい…… VG、俺のザーメン腹の中にこんなに一杯……、零さないでここまで来てくれたの……」
 ヴィンセントの本音であった。堪らず持っていたシャワーホースを離し、左手でヴァレリオの腹をさする。
「はは…… お前にそう言われるとは思わなンだ…… でも、俺も、お前にだったら、女に見られたくないところまで、見せてもいいかもって、思えたから…………んんっ! おま、え、ぁあっぁあっ…… 急かすな!」
 ヴィンセントは煽り気味にヴァレリオの胎内(ナカ)から自身の精液を掻き出していく。ひっ、ああっ、と掻き出される度に色めいた声を漏らす。どぷどぷと脚を伝う精液が勿体ないなあと言う気持ちはあったが、ヴァレリオの身を案ずれば致し方ないし、また今度腸膣内(ナカ)に射精(だ)せば良いか! と快楽主義者らしい思考を巡らせた結果、今回は諦めることにした。 「っ、ああっ…… VGの太くて、やらしい太腿から……俺のザーメン垂れてるの…… やっば、コーフンする……」
 大方胎内に残った精液を掻き出したヴィンセントは腹をさする手をヴァレリオの陰茎に回した。ガチガチに硬直しているそれは、今にも暴発しそうな勢いであった。ヴィンセントはそろそろ頃合いだろうと、シャワーホースを手繰り寄せる。
「VG、俺がもっと好くさせてあげるから……」
 ヴィンセントはシャワーホースをヴァレリオの孔に徐ろにねじ込む。きゅっとケツを締めてホースを閉める様にヴィンセントは心中可愛い、などと思いながらゆっくりと蛇口を回し、ぬるま湯をヴァレリオの胎内に入れていく。
「あっふわっふわっふわっぁんあっあ……」
 ヴァレリオの直腸にぬるま湯が侵攻してくる。精液と違い、あっという間に腹の中が満たされていく感覚に息苦しさを感じるが、それさえも気持ち良く感じる。
「無理なら言ってくれよな!」
「う、もう、だめ……」
 ヴィンセントが言うと即座にヴァレリオが止めて欲しいと頼んだので、蛇口を戻してシャワーホースを孔から引き離す。腹が膨れるほどに満たされたぬるま湯は、かろうじてヴァレリオの胎内に留まっている。ヴィンセントは耳元でヴァレリオの洗浄を促す。
「VG…… 俺が入れたの…… 全部出して見せて……」
「ひ、あっ、あっぁあっ……んんっ! あぁあっううぅううぅ!」
 ヴィンセントはヴァレリオの尻を揉み回していくと、ブチュ、ブピュ、と勢いよく腹の中のモノが汚らしい音とともに出てくるが、漏れ出でるそれは先の精液の残滓を伴って白く濁っているだけで、糞のような色はしていなかった。ヴィンセントは自身の脚にかかるそれを見て、「衛士はクソをしない」という事実をまざまざと見せ付けられ、更に自身の陰茎を昂ぶらせた。
「VG…… もう一回くらいやっとくか」
「ああ…… 頼む……」
 ヴィンセントはもう一度シャワーヘッドをヴァレリオにハメる。整備士だからか、一度やっているからか、慣れた手つきで、ぬるま湯の量の分配を目分量で挿入(い)れてのける。先よりも少しばかり孕んだ湯の量が多いせいか、ヴァレリオは息苦しそうにしている。ただ、蕩けた目つきでヴィンセントを見ているので大丈夫なのだろう。どこがどう大丈夫なのかは知らないが、ヴィンセントの勘はそう言っているのだ。
「VG…… こんなにナカにお湯入れられて、おめえのちんこ、こんなに勃起させてるんだぜ……」
「っ、ヴィンセント、腹ン中も、スペルマも、一緒に出ちまいそう…… っはぁ……」
「いいよVG。俺の目の前でいっぱい射精して。俺も一緒にイくから……」
ヴィンセントは片手で自身を昂ぶらせつつ、もう片方でヴァレリオの髪に優しく触れる
「あっ、ヴィ、ヴィンセント……っ!! 射精(で)る……!!
んんっ! あぁあっふわっあっあっんんっ!」
 ブリュリュリュ……!! 腹に力を入れると、アナルから勢いよくぬるま湯が飛び出してくる。疑似排泄の快感に堪えられず、ヴァレリオは二度目の射精をしていた。前方のタイルには精液、ガラス窓には腹の中の残滓が飛び散っている。ヴィンセントもこの惨状に興奮するあまり、ヴァレリオに向かって精液を飛ばしていた。
「ヴィ、ヴァレリオ……!! あっふわっあぁあっ……っ!!」

***

「シャンプー使えよ、歓楽街(リルフォート)で買ったやつだ。特別だぜ」
「ありがとうVG。なんか、こういうの、恋人みてえだな……」
 落ち着きを取り戻した二人の男は、またもひとつのシャワールームを共有しながら疲れを癒やしていた。ヴァレリオはヴィンセントが不意に口にした言葉に何かを感じ入っていた。
「……そういえばさ、歓楽街(リルフォート)の外れに、温泉出来たンだってさ。なんでもジャパニーズ・スタイルらしい。イタリアのやつとどう違うンだろうな」
「へえ、温泉ってイタリアにもあるの。ともあれ今度行きますか」
「「威力偵察に!」」
 同時に声を揃えて言う二人は顔を見合わせて笑う。二人がセックスする関係であろうが、女の尻を追いかけるのはやめられないのだ。それが男の子というものなのだろう。
「今日はもう無理だな」
「仕方ねえよ。流石に休み明ける前には管制ユニット掃除しとかねえと、おろしたてのアクティヴカピカピのまま出撃とかしたくねえし」
「でもマーキングはきっちりできたな」
「おう、コレでアイツは俺の女だ」
「やっぱり戦術機が性癖なんじゃねえか!」
「だからアイツと一緒にすンなよ! じゃあ今度は俺がお前を抱く番だ! 掃除終わったらラブホで第二次攻撃開始すっぞ!! 覚悟しとけ!」
「不束者ではありますが、どうかよろしくお願いします!!」
 ヴィンセントは全裸のまま頭を下げた。しかし、下は頭を擡げたままであったため、ヴァレリオはその滑稽さに爆笑するしかなかった。しかし、ヴァレリオもまた自己責任の時間外労務のあとの楽しみに、密かに胸を躍らせていた。

【了】

2018/07/21 UP
▲top