最終防衛線

愛の狩人と確率時空
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消された記憶

「ジアコーザ少尉」
 普段は階級なんて気にしないくせに、ちょっと後ろめたいことがあるとすぐ階級呼びになるローウェル軍曹の目が、少しヤバい気がした。酒のせいだけではない気がする。俺は呼ばれた瞬間ビクッとした。
「なんだよ」
 日系の店で仕込んできた9%の缶チューハイを開ける。これで3缶目だ。いい感じに酔いは回ってる。意識はあるし気持ち良く酔えている。女と雰囲気のある酒を飲むのも悪くないが、野郎とグダグダしながら飲む酒ってのも良いものがある。
「……おしっこ」
「行けよ」
 ヴィンセント・ローウェル軍曹は酒が好きなくせにめっぽう弱く、すでに出来上がっていた。
「おまえがして、ここで」
「嫌です」
「なんで」
 なんで俺がここでお前に放尿ショーしなきゃいけねえんだよ。意味が分からない。とか思ったら、壜酒を一気に煽りながらヴィンセントは語り出した。お前はそろそろ辞めとけよ。明日死ぬぞ。
「レオンから聞いた話なんだけどよ、ネバダのときな、レオンが無理やりユウヤの行く先に憚って、クソ漏らさせたことあるんだよ」
「最悪じゃねーか」
「その時にハンガー裏で丁度誰もいなかったらしくて、漏らしたユウヤの前でシコったらめっちゃ気持ちよかったって言ってて。アイツ、俺に嬉しそうに語ってたけど、俺もその時見てたんだよ。その現場」
「は……はあ……?」
 ヴィンセントの話は俺の理解の範疇を確実に超えていた。米軍には異常性癖者が多いことしか理解できない。
「そんとき、おれもユウヤにいやらしい気持ちを抱いたのは事実だが、おれはユウヤにそんなことはできない。アイツがこれ以上傷つけられるのも見てらんないし。クソはレベル高すぎるし」
「俺もだ」
 何で止めてやれなかったんだ、それよりションベンでも相当レベル高いだろとツッコむのを抑えながらも、やっぱり俺にとってもユウヤは大事な仲間だから、性的倒錯の対象には出来ない。いや、快楽の共有とか言いながらうっかり2、3度程度目の前の野郎とセックスしちまった俺が言うのもアレだが、アルコールに思考を奪われてるのであんまり深いことまで考えらない。でもユウヤには手出ししたくない。わかってくれ。
「ってことで、VG、おまえがやれ!」
「理屈になってねェ!!!!」これだけはわかっていた。
「大丈夫! 気持ちよくなるって!! たぶん!!」
 隣にいたヴィンセントは無理やり俺のカーゴパンツをベルトごと剥ぎ取った。酔ってるくせにこういうことだけは素面の時と何ら変わりない。まあ身体が覚えているんだろうな。そのままパンツからうまい具合に俺のチンコを取り出して、空の壜の口に鈴口を押し付け始めた。
「さあ! ほら! VGのションベン見せてくれよ!!」
 ヴィンセントはマジな顔で迫る。ンなツラ見せられたところで出るモンも出ねえよ。
 「出せ」「無理」の押し問答を3分は続けただろうか。部屋の中ではあるが、流石にチンコ出したままだったのと、アルコールが後押ししたのか、堪えられなくなり、鈴口からジョロ、とションベンが流れ始めていた。
 ジュ、ジョボボボボ……シャー…… 心地よい音と共に壜に物凄い勢いでションベンが溜まっていく。俺の出すションベンと、傍らで恍惚しながら放尿を覗くヴィンセントに恥ずかしさを感じて、視線を逸らした。
「くっ…っふ、…………はっ…………はぁっ………!!」
 一度出してしまったら止めようとかそんな頭は既になかった。無心に腹圧をかけて一気に出すことに快楽を覚えてしまった。ヤバい。生理現象だから尚更なのだろうか。こんな…… 部屋の一室で…… 俺は…… とか抗っていたのが嘘みたいだ。射精とは違う快楽にただ酔っていた。
 一通り出し終えて、ゾクッと一瞬震えた。1l壜ギリギリまで出していたことにおぞましさを感じたと同時に、体感として3分くらいあったと思いきや、実際は1分強であったことも中々に恐ろしかった。
「こんなにVGの腹の中に入ってた…… まだあったかい……」
 ヴィンセントは俺のションベンが入った壜を愛でるように持ってその温かさを感じていた。
「や…… やめろよ…… 恥ずかしい……」
 俺はまだヴィンセントと視線を合わせられなかった。ヴィンセントはその壜を床下に置くと、俺の手を自分の股間に宛がった。カーゴパンツ越しから感じられる硬さと生暖かく濡れた感触――
「VGがエッチな顔してションベンすっから、俺まで射精ちまった……」
 精液の匂いに混じる独特の匂いに併せて、カーゴパンツが異様なまでに濡れている。
「こんなはずじゃなかったんだけど、俺も、すっげえ……気持ちよかった……」
 ようやく目を合わせたヴィンセントの顔がやたらと艶っぽくて、チンコはガチガチに硬くなっていた。
「なあヴィンセント、セックス、するか……」
 何でこんなこと言ってしまったのかわからないのだが、やっぱりまだ酒の入った頭でも、この状態と放尿に酔ってしまった事実がヤバいことだけはわかっているのだが、それなのに、何か感じ入ってしまったらしかった。とにかく俺はこの事実を忘れようと缶チューハイを一気に呷った。

***

 翌朝起きたら、俺とヴィンセントは全裸のまま床に転がっていて、更にゲロとションベン塗れの地獄絵図だったのだが、この一晩で何が起きたのか、俺は全く憶えていなかった。

【了】

2018/07/29  UP
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