西園自慰
夜中の剣道場が、静寂と闇に飲まれている。夜というのは不思議なもので、一つ箍が外れれば気が触れてしまいそうになるものだ。西園寺は日課にしている雑巾掛けを終え、着替えようとロッカーに戻ったところだ。しかし彼が開けたのは桐生冬芽のロッカーだった。西園寺は反射的に冬芽の道着を握り締め、顔にうずめる。香水の匂いに混じる汗臭さが更に西園寺を駆り立てた。ロッカーを背にし、すかさず袴の帯を解く。バサリと重力に倣い落ちる袴には目もくれず、道着を持っていない左手で露わになった己を掴む。
女子生徒の付ける香水は大嫌いなのに、冬芽の一部であるというだけで、この手の香りだけは鼻腔を擽り、更に西園寺を奮い立たせる。左手からは更に全身からその一点に血液が集まって来る様が伺える。それと同時に、秘められるべき場所が男性器を求めるようにひくひくと疼いてくる。西園寺は四つん這いに体勢を変えながらも、左手を少しづつ後ろにずらし、ゆっくりと二本の指を埋める。西園寺自身に触れずとも先走りがトロトロと溢れ、床へと落ちていく。道着を顔に埋めるようにしたまま、右手は既にぷっくりと隆起した乳首に掛ける。西園寺は体内、体外双方から自分自身を昂らせ、盛った猫のような呻き声を漏らしながら快楽だけを貪るだけの存在に化したのだ。
「うぅ……ああっ……」
埋めた指はあっという間に深い所までに達し、一番敏感である場所にそっと撫でるように触れると、下卑た喘ぎ声が更に大きくなってしまう。もう誰かに聞こえやしないかなどと心配する余裕などこの時の西園寺にはなかった。触れる度に呼応するように性器もびくん、と容積を増し射精感に煽られ始める。
「冬芽……冬芽あぁ……い、いくっ!!」
びくりと大きく身を震わせ、あ、あっと切れ切れに喘ぎ声を吐き出しながら西園寺は更に敏感な箇所を何度も指で撫で回す。
「あっ、あーーーーーーーっ!!」
みっともない声を荒げながら、西園寺は絶頂を迎え、そのまま崩れるように倒れこんだ。西園寺は精液で汚れた自分の袴と、自分の涎が染み込んだ冬芽の道着を交互に見つめる。今までの熱が一気に冷め先刻までの行為が馬鹿馬鹿しく感じられる程の嫌悪感に襲われた。
「何やってたんだ……僕は……」
2018/07/29
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