妙義_140字
喫煙
ナイトキッズはエンジンと煙草をふかしているだけの集まりだと揶揄されることがある。元締の中里も喫煙者で、何本か流し終え山を背景に愛車を見、ニコチン摂取する。この時間が至福であった。ラッキーに混じった知った汗の匂いが至近で纏われ、中里は傍らの男に隣を許した。
激怒
凹むフェンダーが映ると、一瞬で理性が音を立てて切れる音がした。「ざっけンな!保険使っても直して貰うぞ!」慎吾は中里の罵声を我関せずと流す。胸倉を掴まれ、唾を飛ばし鬼の形相をする男を冷静に見る。一触即発だ。俺じゃねェ、毅とキックベースすべと言った男を見た。
見えないサイン
ブレーキランプ5回でアイシテルなどアホかと思いつつも慎吾は面白半分、ダウンヒルの最中ブレーキを5回踏み込む。後続の32は相変わらずキレた走りで駐車場まで一直線。降りて早々「お前恥ずかしいだろ」と言われる。慎吾は中里が流行歌を知っていたことに頬を緩ませ「お前知ってたんか」と笑ってやった
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愛してるも役不足
好きだなどと嫌でも口にしたくない。口にしたら価値は下がる。それ以前に好意的に囚われたくない。ホントかよ?本当は愛しているとか言ってどうにかねじ伏せたいんじゃあねえのかよ。愛してるなんて言葉よりも、こうして峠二人で攻め合うことこそ至高じゃねえンか? 愛という線引きで測られて堪るか。
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愛に近い執着
「馬鹿野郎!」叫び終わる頃に慎吾は倒れかかった中里を抱いていた。何もないところですっ転びかけた。先週休出だったンだ、勿体ねえ。中里は疲労を浮かべた面で慎吾に言う。その面に色を見、慎吾はどきりとする。「帰れ、すぐ寝ろ」慎吾の檄に中里は顔を歪ませる。「二週間ぶりのヤマ」「早く寝ろ!」
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妙義短歌 3編
君を待つ 新緑深し 妙義山
シビック轟き 鼓動昂る
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漆黒の 闇に溶けあう スカイライン
紅き丸目に 募る思慕
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魔境(けん)の涯(はて) ふたり接吻(くちづけ) 言葉なく 好きと言えず 悶ゆ赤黒
どこか知らない場所へ
すべてが許し難かった。傍の男が自分以外に感情を向けているのを。許し難くて、つい駆け落ちすンべ、と言っていた。毅は首を横に振り「オメェにとってここには何もねえかも知れねえけど、俺はここで死にてぇンだよ」クソ、と続けるもその次に二の句が言えない程度に、俺も地元に思い入れがあったらしい
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隣との距離
20時過ぎ、疲れた肉体に鞭打ってやって来たというのに、嫌そうな顔で出迎えられる。だから俺も嫌がらせとして慎吾のベッドを奪ってやる。ラッキーの匂いと慎吾の匂いが混じり合う。この匂いにさえ慣れ、安堵を覚える。意識を手放す寸前に感じる重さと暖かさに、慎吾に何かしてやるつもりが忘れていた。
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制限時間はあと一分
俺は待たされンのが嫌いだってさっきから言ってンだろうが。大抵最初に決めたことってンは後から決めようが結局最初決めたことと同じ結果になったりするモンなんだよ。テメェのナニはただぶら下がってるだけか!?男だろうが、答えてくれよ。なァ毅。「好き」って答えに決まってンの、俺は知ってンだよ
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黙って泣きやがれ
そこが病院であると思い出したのは、「馬鹿野郎!」と声を荒げた後だった。「静かにしろや、バカ毅。病院だぞ」といつもの悪辣とした声で、だが顔はどこか悲しく、涙の跡を付けた慎吾を見ていたら、不意に抱きついていた。慎吾は嫌そうに顔を顰めたが「黙って泣いとけ」と言った俺の声が泣き声だった。
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世界が狂う
俺とお前は、妙義の下りで競い合って、僅かなタイムで鎬を削る、そういう関係だったんじゃねえのか?そんな、お前、違う「違わねえよ」慎吾の声が地下道に反射する。震えてンのは奴の手が直接俺に触れているせいか。俺の精神が、こいつと築いた世界が、狂ってしまいそうで、俺は柄にもなく怯えていた。
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終わりのない夜
夜の帳と共に開く舞台。背後から迫る赤にぞくぞくと背が粟立つ。この赤をバックミラーから見る度に、走り慣れた道さえも初めて走った時のような高揚感と恐怖心に駆り立てられる。だが、場数はこっちのが上だ。一朝一夕の長野のガキに妙義なんざ攻められてたまるかってンだ。さあ、かかってこい!慎吾!
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きみがねむっているうちにころさなきゃ
万能感にも似た何かを感じ、不意に傍らの男の首に手をかける。何も知らずに眠るリーダー様の寝首を掻くことに、ゾクゾクと興奮を覚え、硬くもなる。そのまま親指をその喉に深く押し付ければいい。だが慎吾にはそれが出来なかった。それだけ慎吾が小心なのか、それが愛というものかは本人にも分からない
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本当、だったり。
誰が嫌いな奴の尻にテメェのナニ入れるかよ、まあ最初見た時は嫌いだったけど、ナニを以って嫌がるお前を見たいと思った時点で、俺はお前のこと好きだったんだろうとは思うよ。だけど俺はテメェの早さも脆さも硬さも全部ひっくるめて、好きなンじゃあ、ねえのかなって……おい毅、煙草落としてンなよ!
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境界線の引き方
Rの隣にEG6を止めた。いつもRの主が離れろと煩いので、敢えて近づいてやったらどうなんだという興味本位であった。「はな……」主が全て言い終わる前にその口を塞いでみたら、いきなり頭突きを喰らう。「ざけンじゃねえよ」と吐き捨てられRと闇に消える。薄い駐車場の白線が毅との隔たりもに思えた。
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つくづく敵わない
ただでさえ重く馬鹿でかいエンジンを積んだRがおれのEG6に勝てるわけないだろう。最初はそう思っていたが、下りで、ただでさえおれよりも長くクルマに乗って、FRに乗ってた時の技術の裏打ちってやつが時々見えちまうと、おれはつくづく敵わねぇと思うと同時に、絶対ぶちのめしてやる、って思えるンだ。
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君とだから出来る
碓氷は昔から知った幼馴染がいて、相手が悪かった。やはり妙義で、あの男とではないと張り合いも極限まで昂るような興奮も付いてこなかった。もう碓氷には戻らないだろう。それで良かった。何度攻めたか判らない下りのカーブで32のテールランプに肉薄し、ギリギリまで逼迫する事が慎吾の至高であった。
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2023/06/03 UP