最終防衛線

熱さと勢い
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top of the head

 「スーパーブルー・ブラッドムーン」と呼ばれるこの月の赤く妖しい輝きにどことなくかつての私を見出していた。
 昼間見たテレビでは152年ぶりだとも言っていた。あの頃、土地は違えど、僧となっても尚、この妖しく変化する月に悪魔と揶揄した者がいたか。 ……なんてことは忘れちゃったけれど、あの時既に「彼」はこの世にいなかった。だけれども。今ここに「彼」はいる。
「リスト、見てみる?」
「どれどれ……?」
 珍しく自ずとベランダに出て望遠鏡と撮影機材を担ぎ込んだ「彼」は控えめに微笑む。控えめだけど、私には初めて見る天体現象に興奮を隠しきれていないこともわかる。
「まるで悪魔的だ。君みたい」
「もう~~チョッちゃんたら! 言うわねぇ!」
  思わず背中を叩いていた。自分でも思ってはいたけれど、「彼」に言われてしまうとなんだか皮肉にしか聞こえないはずなのに、ちょっとだけ嬉しさも感じていた。

【了】
2018/12 UP
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