最終防衛線

アメリカの最果にて
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カリビアン虚無

「なあヴィンセント」
 ここユーコン基地はカフェテリア。ヴァレリオは退屈そうに手持ちのノートパソコンに自身の実証実験のデータを打ち込んでいる。
「何だよVG。お前の期限明日までだろ、真面目にやれよ」
 そうは言うもののヴィンセントの顔も自分が飲んでいた合成コーヒーのように淀んでいた。ヴィンセントもまた整備のデータを打ち込んでいたのだ。
 実に退屈な作業でも、二人でやればマシにもなるかと思ったものだが、ヴィンセントが思いのほか真面目に作業しているものだから、ヴァレリオは正直飽きていた。
「やる」
 ヴァレリオは一言だけ告げると、ヴィンセントの端末にデータリンクを繋ぎ、データを送る。
「ファッ!!??」
 ヴィンセントは食べていたサンドイッチを喉に詰まらせ、慌ててコーラで流し込んだ。画面に映し出されたそれは知らない女の動画だった。正確にはエロ動画だった。
「流石に軍用の共用回線使って送るわけにはいかねえじゃん、だからこうして端末同士を秘匿回線にして、個人向けに直接送ればバレないと思ったンだが……」
「お前はどうしてそういうとこだけ頭が回るんだよ…… まあ、理論としてはアリだと思うね」
「へへ…… すげえだろ! お前さんに直してもらったジャンクのビデオカメラで撮ったンだよ。上手いモンだろ?」
「……何で俺はお前がヤった女をいちいち秘匿回線用いて共有しなきゃいけないんだ……」
女から許可は取ったぞ、とヴァレリオは言ってるが、ヴィンセントはげんなりする。俺は確かにお前のためにビデオカメラ直してやったけど、ハメ撮りのために直したわけじゃない、お前が映画撮りたいって言うから直したんだ……
「なンだ、お前は、エロスは芸術と相反するとでも言いたそうな顔だな。日帝にだってロマンポルノってのがあってだな……」
 しかし、ヴァレリオが撮ったというエロ動画の女の見せ方は光るところがあった。抜きどころもはっきりしている。何より女が可愛い。
「それは聞いたことあるけどさあ…… でも、戦後、回線が軍だけじゃなくて一般層にも開かれて、AVの流通とかしたら、それってすげー商売になりそうだな」
「だけど、軍用回線がそう簡単に一般層に開かれるモンかな……」
 ヴァレリオはぬるくなった合成コーヒーをすする。ぬるくなくてもまずいが、ぬるい合成コーヒーは一層まずい。
「まあ、こうしてお前がエロ動画送ってるけど、あくまで軍事技術だし、端末があるのが前提だから、それが普及したらあるかもな」
「なるほどな。そういや、この辺にも闇市あンじゃん、軍規が云々とかもなくなれば、正規ルートじゃない方法でも流通する方法が出てくるかもな。獣姦とかヤバいやつを裏ルートで取引すンの」
「あるかもな~、あと、オナニーの仕方変わってくるだろうな…… 手軽に自分の好きな性癖のAVとか集められるだろうし…… 自分の好きな時に好きな女で抜けるとかいいよな!」
「端末ももっとちっちゃくなりそうだよなあ。これでも十分ちっちゃいけど」
「……まあ、あくまで戦後の話なんですけどね、戦後があるか知らねえけど」
「あ、そうだヴィンセント、このこと内緒にしとけよ!」
「わーってるって!」

「「…………バカ言ってねえで作業するか」」
二人は互いに顔を見合わせ、虚無感の中データの打ち込みを再開した。

【了】

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