いいこと、いいもの
※160321/ヴィンヴァレ/世界観捏造/ACTVプラモの箱に半ギレしながら書いたやつ※
マブラヴビルドファイターズ的な感じです
ここはアメリカ、世界の最涯アラスカはユーコン基地。戦術機開発を行っていることでも名高いが、後方で財力豊かなアメリカらしくともいうべきか、歓楽街では度々戦術機のプラモデルが街に並ぶことがある。それだけ娯楽に割けるだけの余力があるということもあるが、戦術機の塗装や兵装などの換装イメージができるという点で軍でも一部で使用されている。
パッケージには各搭乗衛士の写真が掲載され、それに載れるということは当たり前ではあるが知名度も上がる。それにより腕利き衛士の昇級、引き抜きなども行われることもある。また試作機であっても、機密の面で問題ないと判断されればモデルがリリースされることもあり、今迄にアルゴスでは篁中尉をはじめユウヤ、タリサ、ステラにオファーがあり、実際に販売迄至っていた。
そして近々アクティヴ・イーグルのモデル化が決まり、宣材写真をアルゴスから決めることになったのだがーー
「広報部の方からマナンダルにと直接のオファーが掛かった。受けてくれるな」
「ももももちろんです中尉! マナンダル少尉、弐型に続き二度目の大役無事に果たしてみせます!」
イブラヒムに好意を抱いていることもあり、タリサは余計に緊張しつつ答えた。
「おいおい、二度目だからって気ィ緩めて変な顔して撮るンじゃねえぞ~ まあ、それはそれで見てみたいけどな」
イブラヒムは訝しげにヴァレリオの目を見る。ヴァレリオは別に俺はいいっすよ、とでも言うように両腕を広げて首を横に振った。
「ジアコーザ、少しいいか?」
ブリーフィングルームから出るとき、イブラヒムから呼び止められる。
「中尉、何でしょう?」
ヴァレリオは即座に振り向き、敬礼する。
「アクティヴの件だが、実を言うとオルソン大尉が直々に申し出てきて……前回のストライクから間が空いたということもあって、女性衛士、マナンダル少尉に是非と言われた。本来ならアクティヴの搭乗経験の長い貴様に任せるべきであったのに……何も出来ずに申し訳ない」
「それでしたら、俺は本当に気にしてないから平気ですよ。何より衛士はアイドルじゃあないンですし。俺は俺の、俺にしか出来ない仕事をしに、今ここにいるンすから」
ヴァレリオはそう言い、一瞥してブリーフィングルームから去った。
「アクティヴ・イーグルを一番巧く操れるのは……俺じゃ駄目なんだ。こいつは前線で戦う連中たちが巧く制御できなければ、お前もろとも駄目になってしまう。そうだろう?」
格納庫で自機を見上げる。サンドグレーかかった白い機体は何も答えてはくれなかった。
「?Realmente piensa asi?(本当にそう思ってんのか?)」
ヴィンセントは背後からわざとスペイン語で話しかける。一応の母国の言葉に当たるが、本土生まれのプエルトリカンだから大して喋れはしないけどなと言っていたのを思い出す。ヴァレリオは振り向きもせずに答えた
。
「Si.(ああ)」
ヴァレリオも完全に理解しているわけではないが、スペイン語で話しかけられても、なんとなくの語感でわかる。それにイタリア語で返してやる。
「面倒くせぇ、もう普通に話すぜ。プラモのパッケージ、タリサなんだってな」
「いいじゃねえか。アイツ本人のせいでもないし。俺はアイドルじゃねえし……でも、パッケージで俺の写真使われたら、俺の格好良さに惚れて買う女の子とか……いたのかも知れねえって思うと……」
「やっぱり悔しいんじゃねえか。心のどっかで引っかかってんじゃん」
「向こうさんもアルゴス機の発売間隔からすりゃあ売れて欲しいだろうし、最善の結果がこうだったンだ。でも、タリサが弐型に乗換えてから結構経ってるのに……俺が搭乗期間、一番……長いのにな」
なんか小さいことでバカみてえだな、と更に続けたが、僅かに声が震えていたのをヴィンセントは聞き逃さなかった。
「バカじゃねえよ」
ヴィンセントは思わず回り込んでヴァレリオに抱きついた。勢い余ってベルトにくっつけていたポーチが落下しスパナが派手にばら撒かれる。
「VGだって……辛かったんだろ?辛いなら泣けよ!」
ヴィンセントの眼からは涙が溢れていた。ヴァレリオはゆっくりと首を横に振る。
「俺は泣けない。泣くための涙はイタリアに置いてきちまったよ……」
ヴァレリオはヴィンセントの髪をそっと撫でながら続ける。
「俺の代わりに泣いてくれるっていうなら泣いて欲しい。俺も力不足だったのかもしれねえけど、やっぱり納得してねえとこはある」
「VG……VG……!!」
「……お前は優しすぎなンだよ……」
「その言葉、VGにそのまま返すよ。お前は他人よりももっと自分を大事にしろよ……俺だって、お前のアクティヴであって欲しかったよ……」
ヴァレリオはヴィンセントの胸に顔を埋める。
「ヴィンセント……少しだけでいい……このままでいさせてくれ……」
ヴィンセントは無言で頷いた。ヴァレリオは深く肩で息をする。
***
「あっ!VG!いたいた!」
「どうした、ヴィンセント?でけえ箱なンて抱えててよ」
箱を抱えながらヴィンセントが衛士詰所に駆け寄る。コーヒーを飲みつつ雑誌を読んでたヴァレリオは紙コップをテーブルに置いてヴィンセントを見やる。ヴィンセントは箱をヴァレリオの目前に置くと、大仰に一礼したのち、敬礼した。
「同志ジアコーザ少尉、貴官の日頃からの開発姿勢、我々の士気向上のために自ずから進んで場を盛り上げてくれる姿勢諸々、いろんな場面で助けられております!よってその感謝を込め、ここに記念品を贈呈致す。整備班代表、ヴィンセント・ローウェル軍曹」
わざとらしく共産めいた台詞回しでヴィンセントが一息で喋り終えると、持ってきた箱を開ける。ヴァレリオの顔が一気に綻んだ。
「ヴィンセント……これ……!!すげえよ……!?」
箱の中身は舞うようにBETAを駆るアクティヴ・イーグルのジオラマであった。躍動感をそのまま閉じ込めたような精巧さにヴァレリオは感嘆の溜息を吐く。そして左肩部の識別番号は03。ヴァレリオのコールサインである。
「これさ………お前の戦闘ログ引っ張って一番カッコいいところを見ながら作ったんだぜ。改めて見て気づいたけど、VGって踊るようにBETA殺ってんだな。ずっとそうやってるってわけじゃねえけど脚部のステップの踏み方とか、跳躍ユニットふかして地面スレスレで長いこと飛んでたりしていきなり回転付けたりするとことかまるでスケートみてえでさ、すげえ綺麗な動きしてるんだよ。やっぱプロ衛士ですなあ」
ヴァレリオは顔を近づけて覗き込み、時折ジオラマの土台をくるくる回しながら覗き込んでいる。
「すげえ……ヴィンセント!!俺の、俺だけのアクティヴ!本当にありがとう!」
「俺はいつでも、本当のお前を見てるからな!アクティヴで戦場を駆る姿は地獄に舞い降りた勇者とで言ってもいいかもな!」
「馬鹿!いくらなんでもそれは言いすぎだ!」
「だけど、お前の実力を見ている奴はちゃんといるってことは忘れんなよ!」
「ああ!こんなの見せられたら俺ももっと高みを目指さねえとな!タイフーンとか作ってみようかな!」
「そっちですかいヴァレリオ先生!?」
ヴァレリオは笑って拳を突き上げた。ヴィンセントも拳を突き上げて、互いの拳をぶつけ合った。
【fine】
2016/03 UP